「なあ。笑うてみぃ」
さっきから再三そう言うのだが、龍斗は、困ったように首を傾げる。
そのたびに、左右へと髪房が重たげにゆれる。
龍斗が天狗よりも小柄な分、們天丸の隻眼は下方へ向くのだが、目を合わせようにも、戸惑ったようなその瞳がうまくとらえられぬ。
大柄な天狗と小柄な龍斗を取り巻くのは穂の出始めたススキ。
そろそろ日が落ちようという頃合いだが、一向に埒が明かぬ。
天狗は、ふう、と息を吐いた。
「なあ、龍斗。ちょおーっと唇を持ち上げたらええのや。ほれ」
童のようにイーッと、唇はもちろん、歯を剥くようにしてみせながら、天狗は己を指さした。
な? と相手を真似るように首を傾げてみせれば、龍斗は逆へと首をかたぶける。
「この首がいかん。傾げとらんとや、ほれ、こおしてまっすぐにして、そんで」
ぐいっと頬を両手ではさみ、ちっこい耳たぶを人差し指と中指でとらえて、小作りな顔を仰向けた。
仰向けさせて、何か笑える一言、この無愛想な若者を笑ませる何かをつぶやくつもりで天狗は口を開いた。
さらりと、その手の甲を、髪房の先が撫で落ちる。
なかなか捕まえさせなかった瞳が、まっすぐと天狗の目を見上げている。
「‥‥腹にな、力を入れてな。そんで笑うんや。おかしいことを考えて」
咳払いをした。
「何でもええよ。おかしいこと、あるやろ?」
もう一度、えへんと言ったら、ふるりと髪がゆれる。
その唇が、かすかに弧を描いたように見えて、天狗はしてやったりとことさら大きな声を上げて笑った。
「そうやそうや。笑ろたらええ。声も出したらなおええよ」
黒眼がちの瞳に見入る。
さらさらと、髪を指で梳いてみた。
たわんだ唇が、くすぐったげに震えた。
声こそ出さなかったが、天狗は、事成れりとうなづいた。
そうしてつぶやいた。
「もっと笑ろたらええよ。な? 覚えたらええ。教わったらええ」
「なんぼでも、なんどでも、們ちゃんが教えたるよ」
ススキの原で、天狗はそう嘯いた。
※們ちゃん男前。