忍者ブログ

あらゆる鳥のしらべ

埋めつくす本たち
MENU

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

薄い殻 ・剣風帖

魔人剣風帖
ちょっとヘンな龍麻。
なお、Rはつけませんが、少々アレです。

===============================================================================




卵がある。
茹でてあるのか、それとも生なのかはわからない。
鉢の中にあるのだから、茹でてあるんじゃないだろうか。
古い日本家屋にありがちな、夕方の薄暗がりの中で、龍麻は皿を見つめる。

卵の形が好きだ。
細い突端も、より丸みを帯びた底も可愛いと思う。
卵料理だったら、かき卵か、卵焼きか。茶碗蒸しも好きだし、温泉卵も、目玉焼きも。いくらだって挙げられる。
龍麻は、卵が好きだ。簡単に料理できるところもいい。一人暮らしの高校男子には大事なことなのだ。ゆで卵だって好きだ。卵ご飯は好きすぎて、むしろ食べる機会を決めて自重するぐらいだ。
だから、生だろうが茹でだろうが、どっちだって一向にかまわない卵ではあるけれど、龍麻は今、少し困惑している。

何であれ食べる時に卵の殻は剥く、あるいは割るものだ。
ところがなぜか、この薄暗い茶の間で、卓袱台に置かれた浅鉢の中、ころりとした卵を見ていると、ふと思うのだ。


大きく口を開ける。
舌をやや後ろへ引き気味にして、
でも咽を狭めるようなことはせず、
できるだけ大きく口を開けて、
それから、
そう、細い方からがいいと思う、
たぶん、口の端の治りきっていない荒れが割れてしまって痛むかもしれない、
それくらい大きく開けて、
歯をたてず、
そっと、
頬の内側を寄せるようにして包みながら、
軽く舌をそよがせ、
奥へと誘導して、
丸くふっくらとした縁を唇だけで包み込むようにして、
咽へ、
食道へ、
そっと優しく送り出す、
けして割らないように、
少し奥へ進めば、
卵の重みが、
内側からそっと、
割れやすいなめらかな殻で撫でるように、
敏感な咽の粘膜を、
握りこぶしよりも細く、
ゆっくりと咽を押し広げてくれるだろう、

むせるところは想像しない。
殻を割らないことが大事。
そうやってゆっくりと、
ゆっくりと
飲みこんでいく、

卵を。


……ぶつり、と切れた。
何度かまばたくと、薄暗い部屋で、卵は卵でしか無く、さっきまでのどこか艶めかしいような、妙な感覚としか言いようのないものは霧散していた。
卵を殻ごと飲みこむなんて、ビックリ人間ショーか、俺はと突っ込みながら、卓袱台についた肘の内側に顎を置いた。

「……飲みこんだら、きっと途中で割れた殻で咽が痛いだろうし」
まるで、負け惜しみを言う狐のようにつぶやいた。

「なにが痛むんだ? それに電気ぐらいつけたらどうだい、君は」
口やかましい主が店から戻った。
台所のビーズのれんが堅い音をたてた。炊飯器のたてる音、盆で茶碗や箸が運ばれてくる音。
それを聞きながら、いつものように立ち上がって手伝う気持ちはどこか薄く、龍麻はそっと丸く唇を開けた。
そうして、こくりと咽を鳴らす。
薄い、割れやすい殻を持つ卵を迎え入れるように。
せわしなく頭を振った。
まだ寝ぼけてるんだろうか。
「どうしたんだ? ぼうっとして」
心配性の主は、盆を卓袱台の上に置いて、確かめるように龍麻の額に手を触れる。
「なんでもないよ、ちょっとウトウトしてただけだ。手伝う」
「本当に?」
「大丈夫だって」
そう言って、顔を寄せる如月を見上げた。
龍麻は、如月の瞳の色が好きだ。
藍色とも濃緑ともつかない、その色が、今日は妙に明るい。
旧校舎で1度だけ見たことのある色だ。

ああ。
これは。

龍麻はうっとりとその瞳を見つめた。

きれいな、細く尖った、蛇の瞳を。





ヘンな玄武の氣にあてられて、素直な黄龍が爬虫類の本能に目覚めた! 龍は爬虫類じゃないけど、玄武の象徴は亀と蛇だからね!

拍手[4回]

PR

× CLOSE

カレンダー

05 2026/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

アクセス解析

× CLOSE

Copyright © あらゆる鳥のしらべ : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]