「今日も暑いっすね」
雨紋がつぶやいた。
あちこちの梢で蝉がざわめいている。
「昨日はまだ良かったよ、30度いかなかったし」
「まあねえ」
その暑い日盛りに、公園で、照り返しをまともに浴びながらパピコを分け合った。
「龍麻さん、どこ行くとこだったんすか」
「んー、図書館」
そういえば、受験生だったなあ、と前歯でパピコのビニールをかじりながら感心した。
「京一さんと行かないンすか?」
「行くよ?」
ちゅうっと口を尖らせて吸い上げて、雨紋よりも少々目線の低い緋勇は笑った。
「区の図書館て冷房効いてるからね。でも今日は、あいつら、まだ補習中」
「へえ」
なるほど、それで緋勇は1人だったわけだ。
少なくとも、男の後輩と公園でアイスを分け合い、ぼんやり座っている程度には暇か。
確かめるように尋ねた。
「じゃあ、龍麻サン、暇なんだ」
「まあね」
パピコの先っちょを噛んで、底の方から、あまり味のしなくなった水を吸い上げた。
何て言えばいいだろう。
先輩を誘うっていうのは、ちょっと難しい。
そう思いながら、言葉をより分ける。
「じゃあ、ちょっと出かけませんか、ニケツになるけど」
「え、いいの?」
あっけないほど、簡単にOKをもらえた。
蝉の声まで、一瞬、静まったくらい驚いた。
公園脇の、行きつけのバイク屋でメットを借りて、龍麻がもたついているのを手伝った。
喉がやけに色が白く見えて、仰け反った時のピンと伸びきった皮膚と、深く落ちた影に、みぞおちの辺りがひどく攣れた。
けっこう不器用なんだな、と、からかってみようかと口を開いたが、唇を湿しただけで終わってしまった。
荷台に尻を落ち着けた龍麻に、重心の取り方だけは説明して、エンジンをかける。
蝉を圧したエンジン音。
照り返しの中、サドルも、ハンドルも熱い。
「ちゃんとつかまっててくださいよ、龍麻サン!」
「了解!」
聞こえないとまずい、と思ったんだろう。
伸び上がるようにして、龍麻は律儀に返事をする。
その両手が、自分の腰にまわったのを確かめて、雨紋は最高に機嫌良く、エンジンをふかした。