村への道は、入り組んでいる。草地を隠し、注意深く田を隠し、細心に家々を隠す。わかりにくい道をたどり、九桐は笠を被った頭をぐっと下げた。
ところどころ、ひっそりと蓮田が広がる。
ぼつぼつと音たてて雨を受ける葉がしなっている。笠の影からすかし見た白い花が、はらりと一枚花弁を落とした。
紗がかかった空だが、その薄い皮膜を通し、日は射している。
まぶしいような、けぶったような視界を、深緑の葉が波打ち、その合間を白い花が揺らいでいる。
なんと清らな光景か。
九桐は、頬をゆがめた。
仕込んだ錫杖が、足取りにあわせ、しゃんしゃんと涼やかに鳴る。鳴り響く音色に雨音が被る。
蓮田に降る雨は、田の泥水を跳ね上げ、花びらを叩いて散り、蓮葉の上でころころと丸まる。
村はまだみえない。
柔らかな景色の向こうで白い花が幾つも揺れた。
蓮田に足を踏み入れて、花を摘む者がいる。
錫杖を身に寄せて、透かし見た。
花が打ち振られる。
花びらが落ちるだろうに、蓮実と花を握った手ははたはたと揺れている。
「御坊、早かったじ」
雨の中、しっとりと髪を湿らせ、頬を濡らして、満面の笑みを浮かべていた。
九桐が近寄るよりも、あちらが駆けてくる方が早いようだ。その様子は、風祭よりも子犬めいている。そう思うそばから、龍斗の世話する犬ころが水を跳ね上げてくるくると走っていく。
蓮の花が揺れる。
「おかえり」
まだ村の影さえ見ぬのに、九桐は思った。
帰ってきた。
ためらいなく両腕に抱き取ると、濡れた体はひやりとして、次にほやほやとぬくもりを伝えた。
どうした御坊、と尋ねる声に生返事をするばかりで、九桐は、しばし蓮の花に埋もれるように目を閉じた。
※お盆なので、蓮の花を摘む。