「ほおずきかい? 市で買ったんだ」
「そんなの売ってるの?」
「ああ、浅草とか、ここらでも市が立つよ」
「ふうん」
からん、と軽やかな音をたてて、沓脱に下りた緋勇が、鉢のそばに屈んだ。
膝に腕をかって、少女のようなうずくまり方をした緋勇は、茂る青葉の向こうから声を張った。
「そういえばテレビで、前に見たことあった、ほおずき市」
思い出したと繰り返して、指先で青い実をつつく。
もっと赤いのは無かったのかと聞かれて、如月はため息をついた。
「帰る時に、駅前のスーパーで見かけて思い出したんだけどね。選んでる余地はなかった」
「つまり、売れ残り」
「そうだ」
膝を抱えた緋勇は、鉢を見つめて動こうとしない。
庭は、長い夕暮れ時を終え、ようやく暗くなりだしたところだ。
如月は縁側に立ち、雨戸に手をかけて見下ろした。
どこかの家で焚いた送り火の匂いが、ここまでただよってくる。
「お盆のキリコ、持ってけなかったなあ」
キリコ、というのは不明だったが、なるほど墓参りをしそびれたのか、と思った。
「旧盆でもいいんじゃないか?」
「まあそうなんだけどね。毎年行ってたからなあ」
この鉢のほおずきが赤く色づく頃には、夏休みだ。
「如月、これ鳴らせる?」
「やったことがない」
「えー、じゃあなんで買ったんだ?」
「季節ものだから」
「庭に植えちゃえばいいのに。うちは、庭に植えてたよ。
並びに、紫蘇とミョウガも植わってて、晩ご飯前に摘むんだ」
まるめた背を伸ばして、もうずいぶん暗くなった庭を、緋勇も眺め回している。
「ここだと、塀際のとことか」
「あそこは苔が良い具合なんだ。掘り返さないでもらいたいな」
「うーん、じゃあプランターに…」
「却下する」
えー、と声をあげながら、緋勇は体を伸ばした。
伸び上がった拍子にジーンズの裾からこぼれた足首が、思いがけず如月の目を射すように白い。
「……スーパーの紫蘇にミョウガだが、食べてくかい」
「食べる食べる。いただきます」
ころころと笑って、緋勇がこちらに向き直る。
あのほおずきが赤く色づいたら、緋勇をまた呼ぼうか、と如月は思った。