自分の対とは何のことか。
拳武館で、何が行われているのか。
確かに何も聞かせていない。
つるりとした頬の、緊張を浮かべた固い線を真正面から見て、鳴瀧は微笑みを隠した。
養い子の真剣さに記憶が刺激され、なるほど似ている、と胸中でつぶやく。
テーブルウェアのしっとりとした照りを弾き、グラスに注がれるミネラルウォーターがしぶきをあげる。
ウェイターが下がるのを待って、自らは食前酒を口にした。
「それで、何を聞きたい?」
そう言葉にして、初めて、なるほど自分は、ずっとこの時を待っていたのだと腑に落ちた。
聞きたがるままに語る、その口火を切ることができる。
だが、養い子は、彼と同じようにグラスを取り、ミネラルウォーターで喉を湿すと、生真面目に言った。
「何も聞きたくないです」
「ほう?」
「聞いてしまったら、俺は、あいつを許さなくてはいけなくなる。今、そう思いました」
すぱりと、そう言って、養い子はナプキンを膝に広げた。
前菜の皿が、静かにサーブされる。
いただきます、と軽く頭を下げて、食の細い養い子にしてはもりもりと、前菜を口に運んでいる。
「なるほど、つまり、許したくないわけだ。龍麻は」
「そうです」
「理由を聞いても?」
口の中のものを飲みこむまで、しばらく間が空く。
「あいつは、自分で考えるべきです」
「ふむ」
「先生も、です」
「私も、か」
「許すのは、俺の役目じゃないです」
それ以上、養い子は言わなかった。
鳴瀧は押さえようのない笑みが顔に広がるのを、今度は止めなかった。