くたびれて眠っているのだから、放っておいてやればいい。
いつもの自分ならば、そう言うだろうし、そうふるまうだろう。
まして、くたびれさせたのは誰だという話になるならば。
一服、新しく吸い付けて、煙をくゆらせ、煙草盆をカンと鳴らした。
目の前の、抜けた襟足はびくりともしない。
……何とつまらないことか。
寝そべっていた床から起き上がり、あぐらをかいた。
かいたすぐそばに、さらりと落ちる髪がある。
今度は髪を、混ぜるように梳いた。
投げ出された、そこはほの白く柔い二の腕の内側を、指の背で撫でる。
煙管を指にはさみ、膝頭に肘を置いて顎を支え、もろ肌脱いだ単を後ろに流して、空けた手で身をたどる。
その形を、覚え込めたら良いのだが。
襟足からもぐらせた指先で、薄い貝殻骨をたどった。
噛みついた痕が、でこぼことうねっている。
ひどいことをしたものだ、と思うそばから、そのわずかにえぐれた痕が、盛り上がろうとする気配を察して、また歯をたててやろうかと思案する。
なるほど、表も裏もないほど、執着していた。
「師匠」
そう呼びかけて、ふと変えた。
「龍斗」
まぶた震え、まつげが動く。
はたはたとそよぐ睫毛をさっと撫で、耳をくすぐり、なお呼んだ。
「たつと」
黒目が濡れたような、その両の目を見下ろして、ただ笑った。
両腕で抱きしめようか、それとも口を吸ってやろうか。
その思いを持てあましながら、そっと呼びかけた。
名を。
呼び返してはくれぬ、つれない奴だとなじりながら、名を呼んだ。
やがて、両脚で細い体を巻き込む頃には、もはや返事のさせようもないほど、あえかな啼き声ばかりが満ちている。