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あらゆる鳥のしらべ

埋めつくす本たち
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祈り 二 ・剣風帖

※以前出した合同誌からの一編

皎々たる月にかけて




手の中で切った札が、ぽうっと光を放つ。

村雨は、小さな小さな彼の道具を、順に撒いた。
一見、無造作に散らばった札の一片を、細い指先が触った。
「やっぱり、器用だなあ」
龍麻の感嘆に、村雨はうっすらと笑った。
どこまでわかって言っているのだろうか。
そんな彼の思案とは無関係に、龍麻はころんと寝転がり、その削げた頬を伏せた手の甲に押し当てた。その姿勢で、村雨がさばく花札を見守っている。
「きれいだな、それ」
汗ばんだ額の端、うるさそうな位置に髪が貼り付いている。
村雨は、その一筋に手を伸ばすきっかけを計りながら、札を捨てた。小気味いい音を立てて、投げた札は床の二枚を表に返し、龍麻がにこにこと笑う。
「あ。月」
赤い空に浮かんだ満月を、龍麻が目にして呟く。
村雨は、音を立てず舌打つと、その札を拾い上げた。
「………験が悪りい」
「月が? 花札って、そういうのあるの?」
「いんや」
そう言って、村雨は一度取り上げた札を、手の中で弄んだ。
きょろんと、痩せた顔に目立つ瞳が、彼を見上げている。首をもたげるのは辛かろうに、龍麻はじいっと村雨から目を離さない。
「なんだよ、せんせい」
「ひょっとして、落ち込んでる? 祇孔」
「別に落ち込んじゃいねえよ」
即座に応えた村雨は、ザッと片手で花札を集めた。少し早口に、彼はうつむいて言った。
「落ち込んでも、なんも良いことねえからな」
ぺたんと、氷のような冷えた指先が、村雨の額に触れ、そこに貼り付いたもつれた髪を梳いた。
村雨が思い描いた仕草そのままに。
何度も続けて強い髪をかき上げる指が、白い月のようにひんやりとしている。
赤い空に浮かんだ月。弧を描いた刃。
村雨は、ため息をついた。
「術の途中なんだ、せんせい」
「知ってる」
目を上げると、微笑む龍麻と視線が同じ高さだった。
「術を張らなくても、俺の傷は、治りが早いよ」
マットレスに立てた顎が、少しこすれて赤い。
人の気も知らず、いけずな事を言う龍麻は、また、小さく笑って村雨の髪に指を差し入れた。床に片手を着いた村雨の上体が傾く。
花札が、床に散って微かな音をたてた。
ひんやりとした手が、後ろ頭にまわった。
その冷たさにも止まらない熱に、再びかき立てられる。
「あんな思いは、二度とごめんなんだがな」
「じゃあ、やめようか」
ごめんだという、そこだけを耳ざとく聞き取った龍麻が、至極真面目に顔を退こうとする。
苦笑し、今度は遠慮なく髪を梳いた村雨は、ベッドの上にゆっくりと身を倒していった。
「今度こそ。俺はしくじらねえからな、せんせい」
柔らかな吐息をつく龍麻に聞こえなくて構わない。
それは、村雨の自分自身への誓いだ。

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