赤い手袋に包まれた指先が、浮き彫りをなぞっている。
ゼロスには、その大仰な模様が、金色に塗られたものなのか、それとも金を貼ったものか、いっこうに区別がつかない。
知る必要も感じない。
「なあ、ほんとに触っていいのか?」
くるりとふり返った拍子に、ほわほわの髪がそよぐ。
おさまりの悪い鳶色は、天窓から降り注ぐ陽光に透け、祭壇よりよほど明るい色をしている。
あいかわらず、大きな目だった。
いい加減、年相応に頬が削げ始めてもいい頃だろうに、と思うそばから、日射しを受けてハシバミ色に変わった瞳に目が惹き寄せられる。
「ゼロス?」
「いいって、いいって。ちゃあんと教会には話つけてっから」
そうしたければ、それこそ分解してもいい。
この中身すべて、したいようにすればいい。
ここにあるすべて、ゼロスの力の及ぶものすべて、好きにすればいいのだ。
ロイドならば。
「テセアラの年号って、わかりにくいなー。何で、どれもこれも王様とか将軍の名前が付いてんだ?」
ぶ厚い美術書は、めくるたびにパリパリと音がした。
埃くさいような、うっすらただようかび臭ささえ乾ききったような、そんな匂いが、ロイドが一葉めくるごとにのぼる。
屋敷の奥。
もともと人の気配がわかりにくい屋敷は、今日も静寂の中だ。
革張りの肘掛け椅子は、本を載せた机同様、本を読むには大げさすぎる。
指のあとがくっきりと付きそうな机に肘をのせ、ロイドは、ペンを走らせた。
机のすみで、赤い髪が揺れている。
そちらを見て、ロイドはもう一度尋ねた。
「この、何とか3世っていうのが、作らせた人なのか?」
「あー、それなー、たぶんそうじゃねえのー?」
だらけた気分がむき出しになった声。
ここ数十分、ゼロスはまともに返事を寄こさない。
さすがに、ムッとしたのが伝わったのだろう。
「俺様、数学専門。人文系は弱いのよ」
言い訳と共にひらひらと手が動く。
その指にも赤い髪がからんでいる。
自分で、いてて、と呟くのを見て呆れた。
呆れながら、いつもここへ来てしまうのを少しだけ笑った。
居心地の良さに甘える自分を、見逃してくれる、その優しさに。