淡い悲しみと共に、パイプを噛み締めた。
なぜ、挑むのか。
優劣は明らかだ。
彼の脚は、そのか細い肢体を支えるのでさえやっとだというのに!
だが、すべてはこれで終わる。
最後の一撃を放つべく、身構えた。
心を和らげる(鈍らせる)香りが身をつつむ。
また、墓所に骸が増えるのだ。
ふと気づくと、頬が濡れていた。
手のひらでぬぐう。
なぜ挑んだのだ。
力の差は、イヤと言うほど知っていただろうに。
「言っただろう?」
声が、どうしようもなく震えてしまう。
「長い夜になるって、俺は言ったな」
「……」
石が転がり落ちる。
そのかすかな音と共に、声は発せられた。
「夜は、明ける」
ガラリと、石が転がった。
ガラガラと転がる石を散らし、細い躯がゆっくりと伸び上がる。
「夜は明ける。必ず。どんなに辛くても、悲しくても」
曲がらないはずの脚を、片手でつかんで、彼はよろめきながら瓦礫を踏みしめて立ち上がった。
アロマパイプをくわえたまま、ふるえを押さえ、薄く笑ってみせた。
「立つのか? まだ? 俺たちに夜明けを証明するために? 俺に何かを見せようって?」
「違う」
柔らかな声。
穏やかな気配。
確かに、いつもの彼が、そこにいた。
そして、黄金の輝きが、あたりを埋め尽くす。
骨が砕けた。
血が、あふれた。
とめどなく涙が流れた。
なすすべもなく地に這う彼に、現実が追いつく。
そう、彼我の優劣は、明らかだ。
「甲太郎。世界は、お前のことなんか気にしちゃいない」
優しい声が、一片の情けもかけずに、彼を慰撫する。
あたたかな無慈悲さが彼の傲慢をたたきつぶす。
そして、すべてが終わる日が、夜明けの光に曝される日がやってくる。