「龍斗やい」
ちょいと触れた額が熱い。
いつからだろう、といぶかしんで、天狗は頭を掻いた。
夕べ、どこかへ引っ込んだように、ふっと気配が消えたのはすぐに知れた。
朝から姿が見えぬと気づいた頃には、日は中天にあった。
こうして見つけるまでに、洞や藪を一つ一つ確かめてまわった。
木のうろに小さく身を丸めているのを見つけられたのは僥倖だった。
それほどに、この気配は読めなかった。
「お山に雲がかむっとるな」
雲で蓋をするような有様は、この季節には多いのだが、おかげで大気がよどんでならない。
まるで、むわりと温もった気に、この細っこい体が茹でられているような案配だ。
そう思案して、天狗は大きくうなずいた。
なるほど、龍斗が熱を出したのなら、では冷やしてやればいい。
早々に気づいたことを大した手柄のように思いながら、丸めた体を抱えた。
「どうや?」
どうもよくない。
先ほどよりも、顔が赤いのではないだろうか。
抱えた躯は、表面こそ、あちこち手が触れればひやりとするが、抱え合わせた胸はじっとりと熱い。
おのが肩にもたせかけた首筋が、熱い洞のようになっている。
天狗はまわりを見回した。
外気が冷えていれば、躯も冷えようと思ったのは間違いだったのか。
さて困った。
馴れぬ親切心を出したは良いが、そも、ひとの世話などしつけていないのだ、そうと気づくのが遅かった。
重たげな首ばかりが、ぐらりぐらりと天狗の肩口で揺れている。
天狗は、途方に暮れた。
「龍斗、目ぇさませ」
天狗は、人の子を癒すすべなど心得ぬのだ。
ゆすってやると、薄く開いた目が、天狗を見上げた。
膜の張ったような黒目は、いつもより鈍く光った。
ぼうっと見上げ、それから周囲を見回した顔が、赤い頬のまま、たよりなくほどけた。
「……花」
「花やない、雲や」
薄雲に覆われた空の中、ほわりほわりと笑って、目を閉じてしまう。
手足の先がより冷えたように思えて、天狗は手荒なくらい、身を揺すった。
「起きんか、ほら、龍斗」
「……何とんない、すぐに良うなる」
かくりと首を揺らし、熱を吐きながら龍斗が言う。
その一言にすがるようにして、天狗は空を駆けた。
何も知らぬという発見に、己の指が凍える心地で通力をふるう。
抱きこんだ躯が温みを求めてすりよる気配に、大きく息を吸いこんだ。
しばらく後。
山で倒れていたという緋勇が運び込まれ、屋形で手厚い世話を受けて、ようよう熱が下がる頃。
あたりを覆う花曇りは、時ならぬ風で散らされていた。
※人のもろさに愕然とする天狗※