「どうしたの」
壬生に問われて、目が泳ぐ。
風邪なんだ、と言えばいいのだろうが、何となく面倒な気がする。
マスクの紐をかけ直すふりで、考えた。
「ええと、ちょっとでき物というかそういうのが」
「ふうん」
反対側の紐を引っぱられた。
ぺろんと外したマスクをぶら下げ、壬生は、もう一度ふうん、と言った。
「水ぶくれてる」
「……火傷、だと思う」
しげしげと見ている。
何となく、猫を思った。何が楽しいのか、じっと何かを見つめている猫。
「何でこんなところに火傷をするのかな」
そして、猫と違って口をきく。
「昨日、皆でラーメン屋に行っただろ」
「いつもどおりにね」
龍麻の青椒牛肉絲は、もやし大量、ピーマンと豚肉は少量。その湯気のたつ最初の一口でなぜか唇がピリッとした。なんだろう、と思いながら家に帰り、翌朝鏡を見たら、水ぶくれ、しかもきれいに潰れていたのだから世話はない。
「ふうん」
同じことをまた。つまらなさそうな表情は、いつもだから、気にしない。マスクを取り返そうと手を出したら、向こうも、ゴム紐を引っかけた手を伸ばしてきた。
「本当だ」
「いっ」
縦に裂けた、唇の赤剥けを指が押さえる。
「ふううん」
「いだいいだいいだい」
ゴムが根元に引っかかった人差し指で、壬生は、龍麻の下唇を押しつぶした。
「もやしの幅に、火傷してる」
向こうが笑っていれば、腹も立つのだろうが、壬生はやけにしげしげと、割れているだろう傷を眺めている。
どういう趣味だと思ったが、口を動かすのが地味に痛い。
「おっちょこちょいだね、君は」
おまえに言われたくない、と思いはすれど、まず、地下鉄ホームで男の唇をスリスリ触っているおまえは何なんだ、と言うべきだった。
その反省は、折に触れ、形を変えて何度も龍麻を襲うことになる。
※地味に痛いです、火傷※