あれは、村を焼いた。
十数年前のことは本意ではなかった、十分ではなかったとでも言いたげに、円楼の内と外とを焼いた。
あれは、夢ではない。
缶ジュースを受け取った。
よく冷えたのと、温かなのと、同じ機械から出てきたものを配っている。
細かな音をたてて釣り銭が受け皿に落ちた。
別の者が、皆にそれを配った。
機械は、きちんと小銭を寄こす。
夜は更けていた。
ここは、穏やかだ。
夢のように。
まるであちらが夢だ。
爪を、くっと手のひらに立てた。
掌紋に沿った傷の、薄いかさぶたをまたはがし、淡い鉄錆びた匂いをかぐ。
ため息をこらえ、缶ジュースを飲み干してから、手のひらを舐めた。
怪我してるじゃないか、そう、めざとく見つけて手を取られた。
絆創膏、と声をあげかけた唇を押さえた。
薄く血のついた指先は、とうに乾いていた。
ナイショ、と笑ったら、眉がもっと寄ったのでもう一度笑った。
そっと指を除ければ、唇はふくりと丸みを戻し、その白っぽく乾いた肌には何の跡もついていなかった。
それを見つめ、過去を、夢のように霞むにまかせる。
時間が流れれば、すべて霞む、そうなるのが当たり前なのだと、賢しらに思った。
だが、血と炎は、けして過去のものでは無かった。
追っていたはずの鬼は、先回りしていた。
ごそりと心をそぎ落とされて、赤く濡れた切っ先を見つめた。
幸せだったから、逆に教えなかった。
できることなら今を夢にしたかった。
過去を夢には出来なかったから。
もう、選ばなければいけない。
過去と今、どちらを、夢にするのかを。
※覚え書きな感じで。※