龍麻が「仲良くない」人間を捜す方が難しい、と如月は思うのだが、ともかく龍麻はアランと親しい。
龍麻、アランがそろって、しばしば王子の骨董店を訪れる。
どちらかが何かしら手土産を持ってくるので、それなりに気を使っているらしい。
そうまでして二人がここを訪れて、何をするかと言えば……
使いさしのポケットティッシュから、数枚引き出して、そっと鼻をかんだ。
鼻はとっくに赤らんでいるのだが、それ以上に、頬を滑り落ちる涙が、音をたてそうな勢いでシャツにシミを作っている。
ため息を飲みこんで、如月は、開けたばかりのティッシュボックスを滑らせた。
ポケットティッシュを龍麻に譲ったアランが、まず。
次に、龍麻が。
そうしていつのまにか増えた劉が、音をたてて鼻をかみ、これまた増えた、メガネの曇りを拭き取ることに余念のない黒崎に、後頭部をはたかれている。
音が、ざらざらとした荒い画面に変わってすぐ、がしょん、とテープの巻き取りが始まった。
「……あー」
膝立ちになって、テレビの前に移動した龍麻が、古めかしい如月家のそれを、パチンと切った。ずっと新しいVHSデッキを接続するには、かなり手こずったのだが、使ってみれば支障は少ない。
「なんや泣けたなあ……」
「……まったくデス」
ビデオデッキの前で、一人正座した龍麻が、背後に手を伸ばして振る。
「ハイ」
アランが、ティッシュボックスを滑らせた。
今度は音をたてて鼻をかんだ龍麻が、さらに何枚か引き抜いて、顔をこすっている。
如月は、ため息をかみ殺した。
ようやく振り向いた龍麻は、照れくさそうに笑って言う。
「はあ。お茶、入れようか」
「ボク、お湯沸かしてクルよー」
「龍麻さん、ほら、くずかご」
「なあなあ哥哥、続きあらへんの? これ、めっちゃ続きありそうやん!」
「どうかなあ、この最終巻出るまでに3年がかりだからなあ」
「そっか。あーでもなー悲しいなー最後の兄妹があかんなー」
劉の一言で、また目が潤み始めた龍麻がうつむく。
「龍麻、泣きすぎだ」
「……うん」
「しょーがないだろう、これは泣ける」
メガネをかけ直しながら、黒崎が言う。
「ライトが来たら、もういっぺん観ようネ」
「まだ来るのか!?」
「あー、如月はん、心配せんでもわいが餃子作ったるわ、一宿一飯の恩義や!」
「……泊まらせた覚えはない」
「前払いやがな!」
なんでこんな事になったんだろう。
如月は、軽くこめかみを揉みながら、ちらりと、デッキの前に積み上げられたVHSを観た。すでに何度、アランと龍麻は泣いたことやら。劉は半々かそこら、黒崎は何とかこらえているようだ。雨紋も…あの図体でべそべそされたら鬱陶しいことこの上ない。
「……まだ、紫暮くんたちが来ていないだけマシか」
アイドルのコンサートビデオを徹夜で視聴し、その挙げ句、アンコールで号泣ものだろう。アイドル本人と言葉を交わす状況でもそうなのは理解に苦しむが。
ためいきをもらして、如月は卓袱台を広げた。