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あらゆる鳥のしらべ

埋めつくす本たち
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忙しいのです ・TOS

※いただいて、派生。


椅子の背を抱き、顎をのせてみる。
ほっそりとしゃれた線を描いた椅子なのだが、抱いて、楽しいわけはない。

背に通した桟の間に、腕を差し入れると、子どもの頃とは違い、肘の手前でつっかえてしまう。むりやり腕を曲げてみようとしたが、細い桟がきしんだので、そこで諦めた。

広い机に布を敷いて、そこに並べた小さなきらきらしたものを、一つ一つていねいに取り上げて、少し削って、磨いて、はめ込む。
ロイドは、ずっとそんなことを続けている。
何をしているのかは、何となくわかる。
机に敷かれた布の、その下のどこかに、ロイドが描いていたスケッチが何枚もあるはずだ。そこには、それはもう細かな流線だの、蔦だの、鳥だの、バラだの、デイジーだのという図案がひしめいている。帳面を用意すればいいのに、ロイドが描き留めるのは紙切ればかりだ。
今、ロイドはそんな図案をちらりとも見ず、細い絹糸めいた彫りを、とろりとした緑色の石に施している。
ロイドは、石にかかりきりだ。
そうして、ゼロスは、傍目には、暇をもてあましている状態だ。
椅子の背にのせた顎が痛い。狭いところに押し込んだ腕もしびれてきた。
ため息をついても、聞いていないのはわかっている。それに、ため息の理由は、退屈だからではないのだ。
(こっちを見てくんないかな)
(ちょっとだけでいいんだけど)
(これ、どうだ?とか、そんなんで充分なんだけどね)
だが、それはロイドの集中が途切れたということで、実はこの集中状態を、飽きっぽいと散々いわれていたこの子どもが、いくらでも延々と続けられるのだと、ゼロスは、もう、よくよく知っている。
貴石の削り屑が、髪の毛よりもなお細く長く、するするとロイドの手元から伸びて、ふいっと止まった刃物のそよぎに、やわらかく布の上に降る。
それを、ゼロスは、飽きず眺めている。
かちりと、時計の針が音をたてたのを機に、今度は遠慮せずにため息をついたゼロスは、椅子から身を起こした。
いてて、といいながら腕を引き抜き、立ち上がりざまに、椅子をくるりとひっくり返して机に寄せた。
広い、マホガニー製の机は、今ではすっかり作業台と化しているので、ワゴンを重宝している。
ロイドの作業は、今度は銀製の台を磨くところに入ったようだ。
「ロイド」
「んー」
「何か食べようぜ」
「んー、ゼロス食べてきな」
「オレ様はまあいいのよ」
「ちゃんと食べろよな、お前」
もう一度ため息をつく。
ワゴンの上には、きれいに盛られたケーキと果物が並んでいる。フォークで、三角のタルトの先っちょを切り取った。
「ほれ、こっち向け、目はそっちにやってて良いから」
ほとんど反射だ。と思いながら、ぱかん、と空いた口に、ケーキを入れてやる。口の中を間違っても引っかけないように、木製の、当たりの柔らかなフォークを使った。なめらかな持ち手は、ゼロスの手によく馴染む。あの旅の間、仲間に一本ずつ、ロイドが作ったフォークとスプーンだ。
「いいフォークだよな、これ」
「よかったな」
自分が作ったフォークを指して言ったということに気づいているのかいないのか。
ともあれ、ちゃんと飲みこんでから口を開くのは、ロイドの美点の1つだ。
(こっちを見ないから減点したい)
もう一切れ、すこし固く焼かれたタルト菓子を運んでやると、また口が開く。少し尖らせた唇には、色気がないな。
そう思いながら頬杖をついて、行儀悪く、ゼロスはケーキを運ぶ。
ため息まじりに。
そっとドアをノックした使用人が、室外から突然の来客を告げたのだが、ゼロスは肩越しに声を張った。
「あー今、忙しい」
二度はいわせず、使用人が去っていく。
見つめるゼロスに、ロイドが、今日の午後、初めて目をちらりと合わせた。
「……忙しいか?」
大仰に、ため息をついてみせて、ゼロスは、また、ケーキをていねいに切り取った。
「忙しい。とっても」
「……ふうん」
ぱくりとフォークをくわえた口元が、きゅっとカーブを描いたので、ゼロスも微笑んだ。


銀の台座に、繊細な図案を彫り込んだ襟留めは、その秋の社交界で、テセアラの神子の胸元を飾ることになる。



ゼロスとロイドは、仲良くしてればいいと思います。ゼロスはわがまま勝手に世話を焼きたい。ロイドは鷹揚に。

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