果ててからの一時、男という生き物からは、己以外の一切が消え失せる。
そこは坊主であろうと変わらない。
そう思いながら、手が、あちこちと触れてはさするのを、自分でも面白いような不可思議なような、相半ばした心地にある。
女と違ってぽてりとした丸みに乏しいが、それでも今は柔らかくなった下腹。
すくうように下から手のひらを当てて、そのまま親指で丸くなぞった。下生えのざらつきと湿り。奥に触れる骨は、押せば容易くたわむ。
「……あっ、や」
胸の下で、小さな声と大きな息づかいが前後して、浮かぶ貝殻骨が胸のあたりをくすぐった。
身を離せば、ついた膝も休められるのだが、と思いながら腰を揺すった。
今度は、声を喉でかみ殺したようだ。
それが何とも寂しく思われて、そうささやいたら、細く伸びた吐息が、急に尻上がりにくるりと巻いた。
力を無くした膝頭を立てようというのか、腰がわずかに動くので、もう一度、回した片腕でとらえる。
そうして腰を固めたら、今度は両肘をつき、重い男の体を負ったままでずるりと前へ出たので驚いた。
やはり女とは違うなあ、と妙なところで感心しながら、腰を抱えて放さず、もう片腕を、肘をつけたその外側にひたりと沿わせる。
汗のかぶった肌をふれあわせ、薄い絹地にたてた指先を、順にからめてもぎ取った。そのまま、伸びきった首筋に唇をはわせ、歯をたてた。押しつぶされた胸の洞で何度も何度も風鳴りのように息があがる。
「まだ、欲しいだろう、師匠」
声が、かすかにもれている。ほんのかすかに。
「ほら」
「ふ、う」
片手は指を絡めて、すがるものを奪う。
なめらかな腹が、ひくひくと波打つ。ぐっと手のひらを押し上げれば、どこかに何かあたったとみえて、激しく震えた。
額を布団にすりつけ、腰だけ無理に高く差し上げられて、常は手練れのこの男が、聞く者の胸を刺すよがり声をあげている。
これを聞いたのは、自分だけだ。
ただそう思って、腰を回した。
「う、うう、あっ」
意味のない音を止めることが出来ず、布団に吸わせようというのか、置いた手のあたりで絹地がぴいんと張った。見れば、食い締めた顎のあたりで布団の絹地と中身が離れていた。きつくしかめて閉じた目と、覗く歯並びと、皺のよった生地が、いっしょくたに揺すられる。
噛みしめられ、破れそうな生地は、重く暗く黒味を帯びた朱色になっている。
腰を抱いた腕を放し、色の変わってしまった唇に触れる。
そのまま深く身をかがめた。
小さな、糸の切れる音がしたが、それにかまわず、湿った生地と渇いた唇とを舐めた。
口を吸いあいながら、薄く開けた目の下で、なおきつく閉ざされたまぶたをそっと撫でた。
薄い腹と同じ、壊れやすい中身を撫でているのだ。
そのすべてをいっそ喰らってしまえたら楽だろう。
それもかなわず、こうして肉を交わらせている。
腕を伸ばし、枕元の紙を取った。
相方は、気を失うように眠ってしまった。
さて、では拭いてやろうか、と思案しながら寝顔を見て、ぶるりと身を震わせた。
赤い唇が、まだ濡れたようにみえる。
渇きが水を欲するように、この欲には底がない。
じっと呼吸をうかがう。
……戦場では気配に聡いこれだが、一向に目覚めない。
安堵しきって眠っている、いつも同衾した後は同じだ。
静かな息づかいを聞きながら、ひょいと適当なあたりへ紙を戻した。
「俺の負けかな、師匠やい」
さて朝方もう一度挑んでみるか、と半ば本気で思い、薄く笑った。
切れて破れた枕元の絹地に指をはわせて、もう一度笑うと、丸い頭を肩に引きよせる。ころりと転がった頭だが、起きる気配はない。
生あくびを噛んで、目を閉じた。
切れた糸なら 惜しいと言える。
愛おしいとは 言えぬもの。
※すぐに、火がつく。愛と憎は裏表。※