忍者ブログ

あらゆる鳥のしらべ

埋めつくす本たち
MENU

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Schatten ・TOS

※08企画 TOS
サイトにも掲載しました。



「今日の宿題終わり!」
「はいはい」


「いつも、そうやってすぐやればいいのにさあ」
「よし、特訓だ特訓」
「……聞いてないし」

ジーニアスが、ノートや本を片付けるのを尻目に、さっと片付けを済ませたロイドは、剣を取って外へと走り出ていった。

「すばやいねえ。……そしてお前は、ぶきっちょだな、坊主」
「うるさいな。ていねいなんだよ!」

もたもたと積み上げていた本が、ばらり、音をたてて崩れた。
笑いながら立ち上がったゼロスは、自分も剣を取って戸口へ向かう。

「あんたも、特訓?」

振り向いた顔は、気のぬけた笑みを浮かべた。

「オレ様が? まっさかー」
「ふうん」

崩れた本を、もう一度積み重ね始めたジーニアスを置いて、ゼロスは戸を開けた。

小屋の外は、まばゆいほどの日差しでいっぱいだ。
斜面になった草地で、駆けだしては一刀、飛び退いてまた一刀、ロイドは剣を振っている。

「……飽きないねえ」

前へ。
後ろへ。
飛び上がり、地に這いつくばって、また飛び上がる。
物騒な刃物を振るいながら、それは舞踏のように軽やかだ。

「あれで、体重がもうちっとあれば、重い一撃になって……」

ふと口走ったことに狼狽えたように、ゼロスは舌を鳴らして、そこに腰を下ろした。
小高い丘なので、向こうに、緑の木立と青い海とが覗く。
空へと視線を移せば、霞がかった青が丸くかぶさっている。

「……春だねえ」

ぴゅん、と空を切る音。
かすかに草がなびき、それを踏む、音ではない、でも耳が感じ取る気配。
吐く息、吸う息は、どちらもうまくコントロールされている。
何度も繰り返してきたのだとわかる。
飽きるどころの話では、ない。
自分の剣を膝に、ゼロスは目をすがめて、ひょこひょこと揺れる逆立った髪、たなびく白い吹き流しを見下ろす。
チチチ、とさえずる鳥が、どこか高いところを横切っていく。

「……ほんとに飽きないね、あいつ」

あくび交じりにつぶやいたが、その、むりやり押し出してみた息に、かえって咳き込みそうになって口元を覆う。
春霞に、ヒバリのさえずり、草いきれ。
風はなく、日差しは優しい。
眠くなってしかるべき状況だが、睡魔はやってこない。
赤い服の子どもは、まだまだ、元気いっぱいにぴょんぴょんと跳ね飛んでいる。

「……ちっとは、こっちも気にしろ」

頬杖をついた。
ずっと、ほぼ最初から見られていることが、気にならないのか。
気づいていないのか。

「いや、それはない、いくら何でも」

息を吐き出すと、まぬけな音が唇からもれた。
ガキっぽいが、そのブルブルする音と震動を味わうように繰り返しながら、じっと下を見る。
ぽん、と飛んだ体が、きれいに宙返りを決めた。
その顔と、視線があった、と思ったのは錯覚だったのか、地に降り立った子どもはまた前方にある、見えない何かに飛びかかる。

「……何とやりあってんだか」

型をなぞっているのではない、というのはわかっていた。それにしては動きが奔放すぎる。だが、モンスターを相手にしているのではないらしい。
何を相手にしているのだろう。
あるいは、誰を、か?
振りかぶる剣にためらいは、ない。切る、というより、受け止められるのをわかっているような、次の合を組み立てて、それを順に試すような流れ。
何か、ではない。
誰、つまりは人だ。
剣の切っ先が向かう高さからもわかる。子どもが思い描いているであろう、すでに体にしみ込んだ相手のリーチ、早さ、斬撃の強さ。わかる。あの子どもにとっては、そこに相手がいるかのように明確なのだ。

突く。
払われて、それを刃で受けて後ろへ一歩。
軸をずらして横から一つ薙いで、もう一刀がたたみかける。

なんと、体は楽しそうにしていることか。すみずみまで動かす喜びにあふれている。その躍動感とは裏腹に、顔は真剣、いや、深刻だ。
両手で頬杖をついて、ゼロスはプッと唇を鳴らして仕舞いにした。
腕を差し上げ、伸び上がり、それでも視線は弾む体を追う。
子どもの目は、ひたすら脳裏に描く剣を追っている。

なんて不毛な時間だったのだろう!

そう思い至ったのは、両刀が地面にぐっさりと突き立った時になってからだった。
両足を前に投げ出すように、子どもが、傾斜の下、日ざらしの中で座りこんだ。だらりと垂れた白リボンが、ようやく子どもの赤い背中に沿う。
二本の白い筋は、傷のように背を走っている。
へにょりとしたトサカ頭が仰向いて、そうして子どもの目が、こちらと合った。

「……よう」
「おう、えーと」

口ごもる子どもに見えているかどうかは分からないが、頬杖のままで笑いかけた。
左手をかざして振ってみせると、子どもは、激しく振り返してきた。

「……バカバカしい」

小さな声で、つぶやいた。
たとえエクスフィアの力を借りようと聞こえるわけのない、小さな声だったが、自分の耳には届く。受け取る者のいない音は、そのまましばらくそこにとどまる、そんな気がした。
剣を鞘に収め、子どもは坂を登ってくる。
襟元をゆるめて、剣が足に引っかからないよう、柄に手を置き、ひょこんとトサカが揺れている。

「あっちいー」

ゼロスの前を、子どもは井戸の方へ逸れていく。脇目もふらず井戸にとりつき、手こぎポンプから勢いよくほとばしる水を、服が濡れるのもかまわず、片方の手袋を脱いで口をつけている。そばにぶら下がっている錫の器は、出番がない。
しばらく飲んで満足したのか、今度は頭に水をかけている。弾く水が、ここまではこないのを感謝して、ゼロスは海の方へ顔を向けた。
海が、水面が、まぶしい。緩やかな坂になびく草が、やけにきらきらと光っている。
近づけば塩っぽい、べたついた風が吹き、青臭い汁がにじみ、小虫が舞い上がるだけの場所なのだ、絵のような景色なのは、見た目だけだ。
その、うんざりする風景を見つめ続ける。
見ているものは、さっきまでと何も変わっていない、そう示すためにも。

「飲む?」

頬のあたりで、ヒヤリと香る。
錫のコップが差し出されていた。

「オレ様?」
「うん。ずっと外にいるだろ? 飲んでおいた方がイイって」

ほら、と差しだす手の甲には、複雑な輝きをたたえる石。細っこい、腱の浮いた甲に不似合いなごつい飾り。細長い指には、タコができている。

「ん」

黙って受け取る手に、文句を言うでなく、ロイドはぽすんと尻を落とした。

「いー天気だなあ」

空を指して、子どもはのんきに言う。さっきまでの真剣な顔をどこかに忘れたように、ほどけた顔は、おかしな事にどこか寂しげに見えた。
ゼロスは、首を振り、冷たい水を飲み干してから顔を上げた。
空を、言われるがまま、良い天気だと子どもが言う空を見上げた。

自分が見上げていたのは、子どもの指先の、その向こうだった、と気づいたのは、ずっと後のことだった。


拍手[3回]

PR

× CLOSE

カレンダー

05 2026/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

アクセス解析

× CLOSE

Copyright © あらゆる鳥のしらべ : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]