「おーい」
わかってはいたが、へこむ。
半分くらいは、自身のせいだが、それでもへこむ。
ロイドは、悲しいくらいあっさりと眠ってしまった。
「……余韻てものをだね、もうちょっと」
未練たらしく、頬をつついたり、前髪をつまんでひねったりするが、起きそうな様子はない。
「ロイドーおおーい」
ぐっすりだ。
いびきこそかいてないが、時折、鼻のあたりでプスンと音がするから、もう少し眠りが深くなると危ないかもしれない。
「この体勢で寝るかね……」
お互い正直いうと、あられもない格好だ。
ちょっと息を整えたら、いちゃいちゃしてみようか、さすがのロイドも恥ずかしがる暇と体力が失せて、きっと素直にあれこれしてくれるかも。
そんな思案をしながら、くっつけた体が同じリズムで動くのを面映ゆい気持ちで味わっていたのに。
「つまんねーの、オレ様、こういうの初めてなんだぜ?」
唇をやや尖らせる。
肘をつき少し頭を起こすと、つながったままだった体がぞくりと震えた。
身をこんな風に寄せ合い、重ね合ったまま、余韻を味わったことなどなかった。
もう一度、今度は少し脇へ寄せるようにうつぶして、伸ばした腕で眠りこけた頭を囲った。
しゃんと立っていた前髪が、すっかり形を崩してしまって、しっとりと腕の裏を撫でる。
寝息が聞こえる。
さっきまでの、喉を詰まらせたような声が、まだゼロスの耳に残っているけれど、この息づかいは、穏やかで静かで優しい。
「……あー、あったかいな、ロイドくんは」
「このお子様体温め」
真っ赤な顔で怒る筈の台詞に、返事はない。
ただ静かな寝息が、応える。
「明日、酷いことになるの確実」
「文句言っても知らないからな」
「起きて、身支度できるかねえ、記念すべきエクスフィア回収の始まりだっていうのに」
「コレットちゃんとか、小僧に何て言うのよ」
「……なあロイド」
いっそつれないほど、静かに、ゼロスを締め出して、眠っている。
人は、いつだって1人。
そんな言葉が頭をよぎった。
身を繋げようと、どうしようと、人は最後は1人になる。
人と人は、結局はさえぎられる。
肌に。
眠りに。
距離に。
時間に。
死 に。
掌を押し当てた肌は温かい。残った細かな傷が、ゼロスの手にも幾つか感じられるけれど、大きなものはなかった。そして鼓動が、そのままゼロスの手を柔らかく叩いている。
そっと、平らな胸を、きれいに並ぶ肋骨をなぞった。
もう少し時間が経てば、より鋭角になるだろう頬、ふくらみを失うかもしれない唇を指先でたどった。
ここにいるロイドは、明日、明後日と時が経つにつれてきっと違うものになっていく。
青年になり、大人へと変わっていく。
同じもので居続けられるわけがない。
いずれは移ろう心のように。
「……もうちょっとへこむかと思ったんだぜ」
もう一度、肘をついてロイドの顔を覗きこむ。
嫌がるのを制して点けていた明かりが、よく眠る顔をほんのりと照らしている。
朝には、どんな顔をして起きるだろうか。
一年したら、自分たちはどこを歩き、何をしているのだろう。
その時、ロイドはどんな風に笑っているだろうか。
その笑顔は、きっと今以上に輝かしいと、そうでないロイドなど考えられないと、そう思う。
やってくる明日は、違うものかもしれない。
未来はそうならないかもしれない。
でも、それだからこそ、愛おしい。
「オレ様、案外と打たれ強かったみたいよ、ロイドくん」
だから、覚悟しておくといい。
この、あっさりと眠りこけた愛しい子どもにささやきかける。
軽い口づけを、無数に落としながら。
ありがとう、今日も、明日も、ありがとう。
一緒に歩む未来が楽しみでならない。
※さわやかに恋をして さわやかに 育てよう
今日も 明日も ありがとう
大矢弘子 ・詞
ありがとうの歌※