「猫か、あんたは」
ちょうどいいと布団を取りに行ってきた村雨がつぶやくと、返事はすぐにあった。
「にゃあ、にゃあん」
……とてもよく似ている。
緋勇家の猫は、ちょうど食事中で、聞こえたはずの飼い主の鳴き声にも動じていない。龍麻の鳴き真似に慣れているのだ。
「せんせい、布団干すからどいてくれ」
一応、家主に頼んでみるが、いつもなら自分から動く彼は、ただころんと仰向いて、猫のように身をねじった。
「おーい」
「にゃあん」
軽く握った両の手を、顔の前に置いてみせられて、これは本当に猫の仕草じゃねえか、と思いながら、村雨は少し斜め上へ外し気味に、視線を動かした。
「……わかった、ひなたぼっこしたいんだな、よし、いいぜ」
縁側ではなく、座敷の縁側寄りに干せばいいだろうと、村雨は布団を掛けるつもりの椅子をずらした。
何か満足げな喉声が聞こえたが、断固としてそちらは見なかった。
「おい、せんせい、背中痛くないのか」
「うーん」
だいじょうぶ、そう言う呂律があやしい。
参ったな、とぼやいて、村雨は陽だまりの端っこであぐらをかいた。
襟足に手をやって、ため息をつくと、ころりころりと転がった龍麻らしきものが、村雨の膝に額をくっつけて止まった。
「……目閉じて転がるなよ、ぶっつけるだろ」
「そんなへましない、猫だから」
あたたかな息が、床と脚をなぐ。
「いやそれはどういう理屈だよ」
日なたで過ごす割に、汗のない額を見下ろして、村雨はもう一度ため息をついた。
「あんた、昼寝が好きだったのか」
確かにやっと色々落ち着いたしな、と納得するようにつぶやく村雨の膝を、カリカリと爪がひっかく。
「寝るのも、ひなたぼっこも好き」
「で、その手は何ですかね」
「ひっかいてる。猫だから」
「餌か、餌だな?」
何かあったっけか、と朝覗いたはずの冷蔵庫を思い描く。その膝が、今度は軽くつねられた。ジーンズだったのが幸いで痛くない。正直、生地をひねられただけだった。
「なーあ」
猫。
龍麻猫は、毛並みの良い日本猫だが、さて何を言いたいんだろう。
「せんせい?」
「祇孔、お腹空いた?」
「いや、俺は」
「じゃあ、もうちょっとごろごろしてようよ、ここで」
あったかくて、幸せな気持ちなんだ、と笑った顔が、ほんとうにほどけるようなもので。
村雨の、床についた手が、引きよせられるように龍麻の頬に触れる。
「で、俺も、猫になるのか?」
「んんん」
あぐ、と、今度は、手の甲に軽く歯をたてられた。
「この猫は、ご主人様にじゃれたいんだよ」
ご主人がじゃれてくれても良いけど。
付け足した小さな声は、あまりに小さすぎて、陽だまりに溶けてしまったようだ。
※さあ、甘さに溶けるが良いわ! ←普段やらないことをやり遂げた感が満々※