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あらゆる鳥のしらべ

埋めつくす本たち
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天の海に ・TOS

'08企画 TOS親子
サイトにも掲載しました。





ロイドを救い、育てた、当の養い親の住まいに身を寄せた。
そうして幾日か過ぎてから、ようやく、どのような結末であれ形を成すまでだと言い訳めいたことを思った。


あちこち開いた傷は、いつもと変わらずするすると閉じた。
日々の不自由もさして無い。
ロイドの養い親、ドワーフは、以前会った時のままに朗らかで、ざっくばらんで、そのくせ、どこか細やかな接し方をする。
ドワーフが用意したのは、ロイドが過ごした部屋の、その隣だった。
ロイドの部屋そのものを使うように言われても、きっと自分は困惑しただろう。
今、彼は、失った息子の残り香を嗅ぐように、その部屋で時を過ごす。
明るく日の射す窓際で、朝の水やりを終えた鉢を前にして、爪先立って水を与えただろう子どもの姿を空想する。
だが、彼の脳裏でゆらめくこの部屋の子どもは、三歳の面影を、いつまでもいつまでも越えずにいる。


あれから一度、ロイド達はイセリアに寄り、そしてこの家を訪れた。
ドワーフに頼んであった細工物を受け取り、三々五々、村とこの家に別れて休んだようだ。長く滞在することはなく、すぐイセリア、そしてシルヴァラントを後にした。
その時、ロイドと、少し話をした。
短い話ばかりだった。


かあさん、が。
ロイドは会話の中で、平板な響きでもって、母親をそう呼んだ。
かつん、と区切られる音が、必ず後に続き、ブツブツと言葉を刻んだ。「かあさん」という言葉が、まるで痛みを伴う音のように、ロイドの声は固く響いた。
以前、旅の間に話した時は、こうだったろうか、といぶかしんだが、すでにその記憶は遠く、確かなことは覚えていない。
その、覚えていないことに、愕然とした。
あの旅の間、ロイドを前にして思い、感じたことが、溶けるように消えている。
愕然とした後に、彼には馴染み深い、乾いたものが心を埋める。
心を乱さず、動じずにいるために必要な、詰め物のようなそれが、彼の内側に積もっている。
その詰め物を通して、ロイドの声に、問いかけに、彼は耳を澄ませた。

「かあさん、は、どんな髪の色だった?」
「お前のよりもだいぶ濃かった」
「かあさん、の、目の色は?」
「お前の瞳と同じ色だった」
「何が、好きだった?」

何を、彼女は好きと言っていただろうか?
すべてが遠く思えてならず、彼はゆっくりと心の内側を埋め尽くすものをかきわけようとあがいた。

「かあさん、は、歌を歌った?」
「おぼえていない、たぶん、歌ったろう」
「こ、子守歌とか」
「さあ」
「料理、は、うまかった?」
「手慣れていた、とても」

空を染める色を、きれいだと言った。
野辺の花を摘んでいた。
頬を打つ雨粒の感触に顔をしかめ、何がおかしかったのか、笑った。
夜を灯すランプの、丸く描かれた輪がゆらめく様を見つめていた。

どうあがいても、彼が、固く閉ざされた場所から引き出せるのは、そんなささいな切れ端ばかりだ。
彼女の声も、彼女の微笑みも、彼女の涙も、揺れ動くものはすべて消え失せて、残ったのは、固く冷えた欠片ばかり。
あの日、欠片と砕けてしまったものを、のろのろとひろげるしかなかった。
欠片を取り出すのに疲れて、彼は、それでもなおロイドを見下ろし、次の問いを待った。
そうして惚けたように口を閉じることを忘れた。

ロイドが、彼を見上げ、笑っていた。

彼が渡してやれたのは、元の形さえ定かではない欠片なのに、それをそっと大事そうに受け取って、子どもは、ただただ幸せそうに笑った。





やがて、すべては終わった。
星を飛び立ち、故郷を後にしてクラトスは思う。
覚えていることが、あれほどあったとは。
記憶の欠片は、驚くほど鮮明に、輝かしく、美しい音色を奏でている。
何度でも、あの子どもは彼に喜びを与えてくれる。


ロイドは、世界樹の根元で空を見上げた。
空は青く、星々はその先で輝いているだろう。
そうして、見えぬ星々の輝きが、この大地に降りそそいでいるように、父の心も降りそそいでいる。

今も、昔も、そしてこの先も、こうしてずっと愛されている。




ゼロスルート

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