空は濃く青く、白い雲は盛りつけられたクリームのよう。
中学の制服に手を通すのもこれが最後だけれど、薄く汗をかいて、式の間ひどく困った。夕方になれば、吹く風がひんやりと感じる。
卒業証書入れを握った手が、汗で濡れた手のひらと、風に冷える甲で暑いのか寒いのかわからない。
お祝いだから押し寿司とゼンマイの煮たのを作っておこうと言ってくれた家政婦は、いつもの時間に帰っただろう。
先生もいらっしゃるでしょうから、多めに作りましょうね、と言った彼女の祝い寿司は、薄い経木に包まれた、鯖と紺海苔がきれいだ。
普段、それほど量を食べない龍麻が大好きな献立。
そして今日は、特別の食卓だ。
「先生、今日は来て下さってありがとうございました」
父兄席に座ってくれて、他の両親や祖父母達と一緒に手を叩いてくれて。
集合写真の雛壇を、他の父兄よりも高い視線から見つめていてくれて。
そうして、今日という日を、一緒に過ごしてくれて。
西日が、背中を押す。
龍麻はその人に向けて、そっと口を開いた。
「……お」
「君も、もう高校生か……。迦代さんも、弦麻も喜んでいるだろうな」
少しうつむいて歩く彼は、先を行く。やや片足を引く養い子が遅れているのに気づかない。自分の先に伸びる影を踏むようにして、彼は前へ前へと足を進める。
「東京に行く、と決めたのも……」
深く息をつくような間が、彼の内心を表す。
「……君の決めたことだ。私から言うことは何も無い」
荷造りをしなくてはね、と笑って、ようやく彼は足取りをゆるめる必要に気づいた。
「龍麻、疲れたか?」
「いえ、だいじょうぶです」
「そうか」
「東京の住まいは、あとで写真や地図を渡そう。
ここのように庭のある家なんだ、弦麻の住んでいた家でね、私が管理していた。
もう家政婦は頼まなくていいと君は言ったけれど、何かあればすぐに言いなさい。
慣れるまでは、無理をしないことだ。
君の父親に託された友人として何でも言ってくれ、いつも言っているけれど」
龍麻の曾祖父の家は、奥まった小路の向こうにあった。
スーツの背が、夕日に色を変えながら前を行く。
「龍麻?」
落とした卒業証書入れを拾うふりをして、敷石の手前にかがんだ。
「先、入ってて下さい、すぐ」
涙声をごまかすように、張り上げた。
「すぐ行きます」
卒業式の涙、それとも何か、何か別の涙だと思ってくれますように。
先生、ではなく、お父さん、と呼ばせてほしいと言えなかった。
そのしんとしたものをぐっと噛みしめ、砕いた。
玄関の引き戸を開けて、じっと待ってくれているその人に、心の中で、呟いた。
『……ばか。お父さん』
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「大切な人に」「家の前で」「泣きながら」「バカ」と言う龍麻
夢見たものは ひとつの愛
ねがつたものは ひとつの幸福
それらはすべてここに ある と
立原道造