返事がない。
「おーい」
立ち止まり、うつむいて、じっとしている。
仕方なく、数歩戻るが、顔を上げないし、何も言わない。
「……ティッシュ」
「あ?」
「ティッシュ持ってないかな」
「ちょっと待て」
ポケットを探ったが、あいにく財布と鍵しか持っていない。
ぐず、とすすり上げた後の声は、何だかかすれた上に涙の気配がする。
「うー」
「おいおい、ちょっとまてせんせい、どうしたんだ」
どこか痛むのか、傷か? 脚か? それとも夕べいや今朝の(以下略)と脳内を駆け巡る諸々をねじ伏せて、村雨祇孔は、龍麻の肩をつかんだ。
「……喉が痛い、鼻も」
ダメだ、どうしよう、と涙声な上、ガンとして顔を上げようとしない龍麻が、ようやく自分の持っているハンカチに気づくまで、村雨は、それはもう心底焦った。
「そりゃ、あんた、花粉症じゃねえか……」
退避したスタバで、散々くしゃみを繰り返す龍麻をトイレに引っ立て、顔を洗わせ、うがいをさせると、ようやく落ち着いた。
「ある日、急に始まるって言うぜ」
「……花粉症」
地の底に沈み込んだような声と、顔色に、思わずよしよしと頭を撫でてみる。
いつもなら、外でそんなことはしないのだが、(花粉で)涙目の龍麻は気にした様子はなく、さらに撫でる手に力をこめた。
「せんせい」
「何?」
「あんた、ほんとに可愛いな」
くしゃん、とくしゃみに紛れて聞こえなかったらしい。
何?と見上げる顔を見て、村雨は、多めに取ってきたペーパーナプキンを差し出した。
「いや、要するに、おれがどんだけ惚れてるかって話だな」
鼻水垂らしてても、とびきり可愛い。
そう心の中で呟いて、村雨は、焦って鼻をかむ相方を抱きしめる代わり、もう一度、その柔らかな髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
※ある日突然くしゃみが止まらず、鼻水が…… でもきっとひーちゃん親衛隊は気にしない。花粉症の皆様、くれぐれもお大事に※